【書評】ケアの臨床哲学への道-生老病死とともに生きる-

【期間】
2021年8月下旬

【動機】
 初期研修の最後の3ヵ月を過ごした総合診療科では、まさに「人間を診る」を体現化した上級医の姿勢に感銘を受けた。ただしそれらを感覚でしかつかめておらず、一体何に感銘を受けているのかわからなかった。そのようなときに本屋を歩いていた際にこの本を見かけ、「はじめに」を読んでまさにここに何かのヒントがあるのではないかと思って購入した。その後読む時間が確保できず積読になっていたが、精神科臨床の中でふと「人間を診る」の姿勢を改めて意識する出来事があったため、読むに至った。

【感想】
 学部生の時に医療倫理の講義はあったが下級生の頃であり、高校卒業後で未熟だった私にはあまりピンとこず、単位を取るためのレポートを書いてそれ以上何かを感じることはなかった。その後病院実習、初期研修で実際の医療に関わり、「医学」というより「医療」的な多くの困難や倫理的判断が求められる場面に遭遇した。
 この本で扱われている内容はこれまでに経験した出来事と多く関連し、また著者の造詣深い文章とその行間から感じ取れるケアへの深い考察とその熱意は、まさに総合診療科の上級医が放っていた"それ"と同じで、「ケア」というものについて改めて考えさせられた。第三部では木村敏など精神医療において重要な人物も登場することからも、精神医療において「ケア」について考えることが重要なのは明白だ。第四章に出てくる言葉を引用したい。

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 何か「スピリチュアル・ケア」と呼ばれる特別な「ケア」があるのではなく、「ケア」はすべてそのような「スピリチュアル」なものへと通じる何かをもっているのではないだろうか。そして、「こころが満たされる」こともまた、このようなところにつながっていくのではないだろうか。
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(p83から引用)

 身体科ではphysical illnessだけを診てあとはソーシャルワーカーに丸投げでも医療として成立する(当然望ましくはない)が、精神医療においてケア(スピリチュアルケア)はむしろ本質に近い。mental illnessだけを診てはいなかっただろうかと自省した。日々観察眼や言葉遣いを鍛えた我々だからこそできるケアを体現したい。
 またこの本は「ケアの臨床哲学への道」とされているように、ケアの臨床哲学について考えた著者の足跡を辿るようなものだった。今後「ケアの臨床哲学」と題した本の出版を予定しているとのことで期待したい。

【書評】精神科における予診・初診・初期治療

精神科における予診・初診・初期治療

精神科における予診・初診・初期治療

  • 作者:笠原 嘉
  • 発売日: 2007/02/01
  • メディア: 単行本

【期間】
2021/4/2-2021/4/3

【動機】
 本屋でも何度か見かけておりサラッと読み切れそうな分量というのは元々知っていた。定番書らしいということを知り、通勤の運転中に読み上げで聞こうとkindle版を購入した(が、読み上げ非対応だったため普通に読んだ)。

【内容】
 タイトルの通り精神科外来における予診・初診・初期治療について、それぞれで留意しておくことについて述べている。文体は柔らかく、サラッと読み切れる。

【感想】
 定番書だけあって金言が盛沢山だった。
 予診については、そもそも3つの側面があるという話から始まる。学生・初期研修で精神科をローテートした際には軽い説明はあるもののよくわからないまま予診の当番が回ってきて、通常の身体科での予診とやや毛色が異なる気がするけどナニコレ?と戸惑いながら、病歴を聞いたのちにテンプレートを埋めた。予診者が精神科志望の場合には自信が初診者のごとく話を聴取して診断まで考えていたこともあったし、自分もそうしていた。それは予診が「外来の練習のため大学病院でのみ用意された場」だと考えていたからだが、実際には予診は精神科において普遍的に存在し重要な役割のあるものだった。かなり時間をかけて予診をしてしまっていた自身の経験が苦く感じる。初診は3つの側面をもった役割のあるものであり、また「『全体のゲシュタルトをえがく』ことこそ予診の仕事である」ということは踏まえて予診に臨むべきだっただろう。後期研修中も予診を担当することは多いと想定されるため留意したい。
 初診・初期治療のパートでは、初診に限らず外来・入院患者さんとの日常診療などにも大切な一般的にあるべき姿勢について述べられている。精神医学的猥雑性の話と、家人や職場の人など本人に近しい人に対する姿勢の話はとても大切な話をしていた。
 また対人関係での修羅場について、その経験こそが精神科医アイデンティティであるという旨の記載はとても心に響いた。現在Twitterでは、摂食障害で入院した際の精神医療の残酷さを語った東洋経済の記事が一部で話題になっているが、それに対して下記のコメントがあった。


対人関係での修羅場・治療同盟の失敗は、今後何度も経験し苦しむのだろうと思うが、それも大切にしたい。願わくば上のような考えが自然に浮かぶような精神科医になりたい。

【書評】援助者必携 はじめての精神科 第3版

援助者必携 はじめての精神科 第3版

援助者必携 はじめての精神科 第3版

【期間】
2021/3/14

【動機】
 立て続けに何人かの精神科ツイッタラーが呟いていたので読んでみた。

【内容】
「援助者必携」と銘打っているように、精神科医のための書籍ではなく精神疾患を持つ方々を援助する立場にあるあらゆる人が、援助に先んじて知っておくべき教訓や対処の原則について述べられている。疾患そのものの深い話や向精神薬の話などはなし。

【感想】
 すぐに役立つ知識が書かれているわけではないが、実臨床でまあまあありがちな困ってしまうケースや対応を間違えてしまいがちなケースについて、妥協的な対応策や実際のところの本音なども記載されており、読者の精神を安定させる役割もありそう。また読んでいる中で、自身が初期研修で精神科をローテートした時のことを思い出してまずかったなと振り返る点も多々あり、後期研修前に振り返ることができてよかった。特に初期研修の際には「診察のマンネリ化」で悩んでいたが、それは必ずしも悪いことではないことを知れたのは最大の収穫だった。

【書評】薬剤師のための 精神科の薬 処方の意図を読む 吉尾 隆

薬剤師のための 精神科の薬 処方の意図を読む

薬剤師のための 精神科の薬 処方の意図を読む

  • 作者:吉尾 隆
  • 発売日: 2020/07/25
  • メディア: 単行本

【期間】
 2021/3/12

【動機】
 精神科のないへき地総合病院で研修している時に、入院患者さんが内服している向精神薬についてコンサルトされることが多かったため、院内勉強会で向精神薬処方内容からその意図を読むような発表をしようとして買った。結局勉強会はやらなかったが…。

【内容】
 大うつ病性障害、双極性障害神経症統合失調症認知症の5カテゴリについて、各疾患の薬物療法の概要を述べた後、いくつかの処方例についてその意図を読むような構成。

【感想】
 初版のため誤字脱字が目立つのはご愛嬌。
 各疾患の薬物療法の概要はスマートにまとまっててわかりやすい。
 処方例で出現する薬の頻度に違和感がある。SSRIでいえば、パロキセチン(10回)、フルボキサミン(6回)に対して、セルトラリン(2回)、エスシタロプラム(1回)とかなり少ない。臨床実感での頻度とかなり解離がある印象(一初期研修医の見解)。ただ薬物相互作用の多さから、薬剤師が気付くべき点を取り上げるためなのかもしれない。
 とはいえやや違和感のある記載が一部あり。例えば、フルボキサミンとラメルテオンが処方されていたら禁忌なので疑義照会は当然必要ですが、「ゾルピデムなどへの変更を提案する」と言われると何か違う気がする。単純にスイッチできる2剤ではないし、経過にもよるのでやや踏み込みすぎな印象。

【書評】こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩

【期間】
2021/3/6-2021/3/7

【動機】
 専攻医になるにあたり精神科の知識を満遍なくつけようと思いよさげな本を探し、amazonのレビューがよかったコレを読んでみた。

【内容】
 前半は精神病理学、後半は主に神経薬理学に基づいた薬物療法について述べられている。また全体を通して一部に精神療法や薬物療法にあたっての説明のコツが記載されている。

【感想】
 話し言葉で記載されているのでスイスイ読める。著者自身が比較的若手(?)なためか、徹底して主張が謙虚な印象がある。
 前半は精神病理の話をやわらかく、主に「あいだ」に軸を置いて述べられている。
 後半の薬物療法パートは「指導医の小話で出てきそうな精神科臨床トリビア」を出典と併せて記載されておりすごくおもしろかった。また私見には私見とわかる形で、ただ納得感のある説明もつけられていて試してみようと思える部分も多数あった。全部吸収しきれている感じはしないので、実際に専攻医になってから時折振り返りたい。